令和乙女日記

拗らせメンヘラの端書き

大好きな貴方へ

わたくしが貴方のファム・ファタールでありますようにと願います。
貴方がわたくしの運命の人であることは違い無いのです。それは、恋愛的な赤い糸で結ばれたものかもしれないし、広義の運命としてのそれかもしれない。何にせよ、貴方がわたくしの人生に大きく横たわっていることは確かで、そして本来貴方はわたくしの世界に入ってくる予定の無かった方だと思うのです。わたくしは初め、貴方と出会いたての頃、貴方と縁を切ろうとしたことがありましたよね。思えば、あの時にわたくしと貴方の関係は絶たれる予定だったのだと思います。けれど、神様の気まぐれか、はたまた予定調和すら飛び越えたわたくしのものすごい我儘かで、わたくし達の縁は再度繋がった。繋がってしまったのです。
その時からわたくしにとって貴方が運命の人であることは決まっておりました。最初は小さな違和感と好奇心、だけどそれは徐々に膨らみ、淡い恋心と依存へと変貌致しました。わたくしはこのあまりに大きな感情の扱いに困り、何度も貴方を困らせてしまいましたね。ほんとうにごめんなさい。
貴方のように高潔な方は、これまでわたくしの周りにはおりませんでした。これからも現れることはないと思います。わたくしは偶に、貴方が本当はこの世に存在していなくて、わたくしが妄想で生み出した幻影なのではないかと不安になります。それほどまでに貴方は浮世離れしているのです。
もちろん、貴方がこの現世に根を張り生きている、血の通った人間であることはきちんと心得ております。貴方がただの美しい存在ではなく、怒り声を荒らげることや、苦しみ涙を流すこともある生物であることは重々承知しております。けれどそう分かれば分かるほど、どうしてそのように清いまま何十年もこの世界で生き延びてくることができたのだろうと、わたくしは不思議でたまらなくなります。
あまりに清く優しく美しい貴方。まっすぐで誠実で、きちんとぶつかれば同じ質量でぶつかり返してくださって、反対に雑に力をかければそれはおかしいと避けてくださる貴方。まるで物理法則のようですね。生身の人間なのに、そんなことはあるのでしょうか?
わたくしが欲望を通した眼鏡で貴方を見ているだけなのかもしれません。けれどどうしても、ただの眼鏡の効果のようには思われないのです。わたくしが語るほどではなくとも、やはり貴方には純潔な部分があり、それはこの世界で持ち続けることが極めて困難な代物のように思われるのです。
わたくしはそれを優しさと呼びますが、きっと世間は弱さと呼ぶのでしょう。貴方は強くなくてはならない「男」ですから、その弱さを糾弾されることも多く、日々胸を痛めていますよね。貴方のような美しい、奇跡のような人がそのように苦しまなくてはならないこの世界をわたくしはおかしいと考えます。
わたくしが世界を変革できる革命家であれば良かった。けれど実際は、お風呂に入る体力すらない弱虫です。ベッドの上で何リットルもの涙を流すことしか脳のない役立たずです。せっかく貴方のような素敵な人が運命の人として現れてくださったのに、何にもお返しするものが無い自分を恥ずかしく思います。
どうかいつか、わたくしが貴方のファム・ファタールとなれる日が来ますように。二人でなら綺麗なままこの世界で生きてゆけると、思える日が来ますように。